DIFFERENCE
自費診療と保険診療の違いについて
~歯を長く守るという観点から~

当院では、保険診療・自費診療のいずれにも対応しておりますが、どちらが優れているという話ではなく、「目的と優先順位」によって選ぶ治療が異なるというのが、正しい理解だと考えています。
私自身、歯科医師になって間もない頃は、口腔外科に所属していたためほとんどの治療を保険で行っていたため、自費診療というと「高額で見た目重視」『拝金主義』という印象が強く、少し距離を置いていました。
しかし、臨床経験を積み、学会や研修で知識を深めるなかで、自費診療の本質的な価値——すなわち「歯の健康を長期的に維持するための選択肢」であることを強く実感しています。
保険診療の限界
保険診療は「国が定めた基準に基づいた最低限の機能回復」を目的としています。
- 使用できる材料の制限 保険では基本的に、金銀パラジウム合金(いわゆる銀歯)やレジン(樹脂)などの材料に限定されます。これらはコストを抑えることができますが、経年劣化や変色、二次的な虫歯のリスク、適合精度などに課題があります。銀歯を使っている国は先進国ではほとんんどありません。一部の国では人体への悪影響を考慮して使用が禁止されている国もあります。
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技工物の精度
技工物(詰め物や被せ物など)の作製にかけられるコストと時間が限られているため、必然的に精度に差が出ます。技工物は技工士の方が作成しますが、現在の保険点数だと治療する歯医者も制作する技工士も赤字ギリギリのラインになります。そのような背景では一つの技工物に精度を求めて時間をかけて作成することはできません。その結果マージン(適合境界)のわずかなズレが、将来的な虫歯や歯周病の原因になることもあります。
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- 診療時間と処置内容の制限 保険点数制度では、1つ1つの処置に対して時間と報酬が決まっているため、例えば「細かい咬合調整」や「歯周組織の丁寧な処置」などに、十分な時間をかけづらい現実があります。
銀歯の下の虫歯
自費診療の本質
一方で自費診療は、「歯の健康をいかに長く維持するか」という視点で治療計画を立てることができます。
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高精度な材料と技工物
セラミックやジルコニア、ゴールドなど、耐久性・生体親和性・適合精度に優れた材料を選択でき、再治療のリスクを減らせます。
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時間をかけた診査・診断と処置
診査、カウンセリング、設計、施術すべてにおいて時間をしっかり確保し、患者さんの噛み合わせ、歯列、習癖、清掃状況などを多角的に分析して治療を行います。
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メンテナンス性と予防の
視点自費診療で使用する修復物は、歯垢がつきにくく清掃性も高いため、治療後の口腔環境維持がしやすく、長期的なメンテナンスにも有利です。
まとめ
治療の選択肢には、それぞれに役割があります。短期的な費用負担を抑えたい、最低限の機能を回復したいという方には保険診療が適しています。一方で、歯の寿命を延ばし、再治療を避けたい、精度と長期安定性を重視したいという方には、自費診療が適した選択となります。
私たちは、患者さん一人ひとりのご希望や生活背景を尊重したうえで、科学的根拠に基づいた治療のご提案をいたします。無理に高額な治療を勧めることはありませんので、どうぞ安心してご相談ください。
TREATMENT
『自費診療だから安心』とは
限らない
限らない


最近では、「セラミックだから安心」「自費診療だから質が高い」といったイメージをお持ちの方も多いと思います。もちろん、自費診療ではより優れた材料を使えたり、精度の高い技工物を選べるといったメリットがあります。
ですが、実は歯科の治療において本当に大切なのは、どんな材料を使うかよりも、どうやって治療を進めるか、つまり「治療の中身」です。いい材料=いい治療ではないというのが私の考えです。
実際に、当院には「高額な自費治療を受けたが、数年でトラブルが出てしまった」「再治療を希望している」という方が一定数いらっしゃいます。診査してみると、セラミックのクラウンが適合不良だったり、虫歯の除去が不十分だったり、接着操作がラフだったりと、材料は良いのに内容が伴っていないケースを多く目にします。
たとえばセラミック修復ひとつを取っても、以下のような細部へのこだわりが、長期的な成功に不可欠です。
- 感染象牙質の適切な除去 深在性う蝕においては、う蝕検知液やう蝕進行の診断を活用し、削りすぎず、残しすぎず、感染歯質を確実に除去することが前提になります。
- **IDS(即時象牙質封鎖)**の実施 象牙質露出部の知覚過敏や接着耐久性低下を防ぐために、形成直後の封鎖処理が極めて重要です。
- ラバーダム防湿下での接着操作 湿潤下での接着は、予後に大きな悪影響を及ぼします。ラバーダムまたは最低限のアイソレーションを徹底し、接着の確実性を担保する必要があります。
- 咬合・咀嚼力への考慮 修復設計において、咬合関係やブラキシズム等の習癖を無視すれば、破折や脱離のリスクが高まります。
これらは、単に材料を「セラミックにした」だけでは決して達成できません。むしろ、材料の性能を活かすためには、それに見合った工程の質が求められるのです。もちろん、他の医院を否定するつもりはありません。ただ、自費診療=良い治療、というわけではなく、大事なのは“誰が、どんな考えで、どんなふうに治療をするか“が大事だということです。
私は日々の診療において、学術的な根拠(エビデンス)を重視し、常にアップデートされた手技と材料を選択するよう心がけています。「高額な治療=安心」ではなく、「治療の中身=結果」というシンプルな真実を、お伝えできればと思います。
もし治療について気になることがあれば、どんな小さなことでも遠慮なくご相談ください。患者さんが納得して治療を選べるよう、できるだけ分かりやすく、ご説明いたします。
セラミックの下の虫歯
MESSAGE
私たちの想いと
当院から患者様へのお願い


時折、他院にて高額な自由診療を受けたものの、満足のいく結果が得られずお困りの患者様が、当院を訪れることがあります。
なかには、再治療の費用をご負担いただくことが難しく、やむなく保険診療を選ばれた方もいらっしゃいます。また、保証の範囲内という理由で再治療を受けた結果、かえって状態が悪化してしまい、当院へ戻ってこられた方もおられます。
そのような患者様と向き合うたびに、私たちは胸が痛みます。私は有名な歯科医ではありませんし、自分より経験豊富で技術のある先生方が多くおられることもよく承知しております。
しかし、日々進化する医療技術や材料について学び続け、常に最新の知識を取り入れながら、真摯に一つひとつの治療に向き合うことを大切にしております。

インプラントをはじめとする自由診療は決して安価ではありません。だからこそ当院では、「きちんと治療を受けたい」と思ってくださる方に対して、しっかりと時間をかけて診査・診断を行い、将来を見据えたご提案をさせていただいております。
その一方で、「痛いところだけ治してほしい」「とりあえず取れたものをつけ直してほしい」といったご希望には、十分にお応えできないこともあるかもしれません。
私たちは、一時的なその場しのぎの治療は決して行いません。目の前の症状だけでなく、お口全体の健康と将来を見据え、生涯にわたって患者様と関わり続ける責任を持つつもりで、治療にあたっております。
どのような治療においても100%の成功はあり得ません。だからこそ、「この医院を選んでよかった」「この先生にお願いしてよかった」と思っていただけるよう、今後も誠実に、責任を持って診療に取り組んでまいります。皆様のご理解とご協力を、どうぞよろしくお願いいたします。
